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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)228号 判決

一 原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考察する。

(一) 原告は、審決が本件商標を「ゼリヤ」と「コート」に分離して称呼すべき特別の理由は見当らないとした判断は誤つているとし、まず、被告の商号は、別件登録商標(「Jelliacoat」の欧文字と「ゼリアコート」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、第一類、化学品、薬剤及び医療補助品を指定商品とし、本件商標と連合するもの)及び本件商標の各出願日においても、その各登録日においても、「日本ゼリア株式会社」であり、この商号を他から識別させる要部は「ゼリア」の部分であつて、この事実からすれば、別件登録商標のうち「ゼリア」と称呼されるべき部分は別件登録商標の要部というべきであり、別件登録商標は、「ゼリア」の部分と、「コート」の部分とに分けて称呼されることがあるというべきであるところ、本件商標と別件登録商標とは「コート」と称呼される部分が同一であり「ゼリヤ」、「ゼリア」と称呼される部分は類似し、全体として類似するものであるから、本件商標もまた「ゼリヤ」と称呼される要部と「コート」と称呼される部分とが分離されて称呼されるものといわなければならないとの趣旨及び、被告は訴外ゼリア新薬工業株式会社からの商号使用差止請求訴訟において、同社と、「日本ゼリア株式会社」の商号を変更し、「ゼリア」又はこれに類似する文字を含む商標は、「ゼリア」又はこれに類似する文字を含まない他の商標に改めることを約したが、このことは、被告自身「日本ゼリア株式会社」なる商号が「ゼリア新薬工業株式会社」の商号と類似であるだけでなく、当時被告が使用していた本件商標及び別件登録商標が、「ゼリア」の商標と類似することを認めていたからにほかならない旨の主張をする。

しかしながら、被告の商号がどのようなものであつたかということや、被告が原告主張のような内容の和解をしたというような事実は(仮に右和解において被告が「ゼリアコート」の商標の称呼と「ゼリア」の商標の称呼とが類似していることを認めたとしても)、いずれも被告に関する主観的な事情であつて、本件商標が、取引の実際において、「ゼリヤ」と「コート」に分離して称呼されるかどうかという客観的な事実とは関係がないものというべきであり、原告の前記主張事実が真実であつたとしても、その事実が本件商標を「ゼリヤ」と「コート」に分離して称呼すべき特別の理由に当るものとすることはできず、また、本件商標が別件登録商標との連合商標として出願され、登録されたとしても、そのことから、本件商標と別件登録商標の要部がそれぞれ「ゼリヤ」と「ゼリア」であるということはできない(本件商標、別件登録商標が「ゼリヤ」と「コート」、「ゼリア」と「コート」に分断されることなく、「ゼリヤコート」、「ゼリアコート」と一連に称呼されるからといつて、そのことの故に両商標は類似せず、従つて連合商標になり得ないものとすることはできない。)。原告の主張はいずれも理由がない。

なお、原告は別件登録商標において、「コート」と称呼される部分は外被物を意味する普通名詞であるから、別件登録商標は「ゼリア」と称呼される造語部分たる要部と普通名詞部分たる「コート」に分離して称呼されることがあり、その点本件商標においても同様である旨の主張をしているが、「コート」の語が通常、普通の衣服の上に着る衣服を意味するもの、又はレインコート、オーバーコートの略語として用いられるほかに外被物一般を意味するものとして日本語化しているということはできないから、このことを前提として、本件商標の要部が「ゼリヤ」の部分であり、本件商標は造語部分たる「ゼリヤ」と普通名詞を表わす「コート」の部分に分断して称呼されるものとする原告の主張は理由がない。

(二) 原告は、「ゼリア」又は「ゼリヤ」の称呼部分をもつ商標は数多く出願されているところ、そのうち原告主張の<3>ないし<10>の商標について、特許庁は、これらの商標は引用各商標と類似であると判断し、又は類似することを前提とした判断をしていることからすると、審決が本件商標と引用A、B両商標とを非類似としたのは、理論的に一貫性を欠く旨主張する。

しかしながら、原告主張の商標のいずれもが、「ゼリア」又は「ゼリヤ」と称呼される部分をもつているからといつて、そのことの故に本件商標が「ゼリヤ」の部分と「コート」の部分に分離して称呼されるものとすることはできず、右各商標の登録出願に関して特許庁が示した判断は、本件訴訟における当裁判所の判断に何の影響も及ぼすものではない。原告の主張は理由がない。

(三) 本件商標は「JELLIYACOAT」の欧文字と「ゼリヤコート」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなるものであるところ、「JELLIYACOAT」の欧文字も「ゼリヤコート」の片仮名文字も、それぞれ同じ書体、同じ大きさの文字で一連に書され、「JELLIYA」「ゼリヤ」の文字と「COAT」「コート」の文字との間に間隔はなく、全体の構成も比較的短かい故に、その構成に徴し、これを一連に称呼しても冗長にわたることなく、簡易迅速を旨とする取引の実際においてもなお、「ゼリヤ」と「コート」に分離されることなく、一連によどみなく称呼されるものと認めるのが相当である。

(四) 原告は、引用各商標は、昭和三一年六月頃から原告が製造販売しているコンドロイチン硫酸製剤の栄養剤ゼリア錠、ゼリア注等に使用され、また訴外ゼリア新薬工業株式会社は、原告から引用各商標の包括的な使用許諾を得て、これを右訴外会社の製造販売する医薬品「ゼリア肝胃錠」、「ゼリア虫さされ軟膏」等に使用し、引用各商標は被告の本件商標登録出願当時(昭和四一年一月六日)においては、取引者、需要者の間に広く認識されていたところ、右訴外会社の医薬品の製造販売も原告の業務に係る商品の製造販売ということができるから、被告が商品「コンドーム」に本件商標を附して販売することは、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある旨主張する。

証人谷口俊一の証言、成立について争いのない甲第一八号証、第二四号証、第三八号証を綜合すると、原告会社は昭和二五年に設立されたものであるが、昭和二八年終り頃「ゼリア錠」を、それより約一年遅れて「ヤングゼリア錠」を売出したこと、昭和三〇年一二月にゼリア新薬工業株式会社が設立され、それまで原告会社の化粧品部門で扱つていた化粧品の製造、販売の事業が同社に移され、同社は「ゼリア美肌ローシヨン」、「ゼリアマツサージクリーム」等を製造、販売したが、昭和三四年頃以降「ゼリア肝胃錠」、「ゼリア虫刺され軟膏」、「ゼリア胃腸薬」等の医薬品の製造、販売も始め、現在においてはむしろ化粧品よりも医薬品の製造販売業務がその営業のほとんどであることを認めることができる。しかして前記甲第一八号証(証人谷口俊一に対する尋問調書)、第二四号証(証人伊部禧作に対する尋問調書)には、原告会社は昭和二九年から同三一年にかけて一億数千万円の費用をかけて、ラジオ、テレビ、週刊誌、新聞等により自社製品の宣伝広告を行なつた旨の供述記載があるが、証人谷口俊一の証言によりその成立を認め得る甲第一九号証の八、九、二〇、二三、二五、証人谷口俊一の証言によれば、その宣伝広告は、「ゼリア錠」等の医薬品よりもむしろ化粧品に関するものの方がはるかに多額であつたことが認められ、前認定のように、ゼリア新薬工業株式会社が設立され、同社が「ゼリア美肌ローシヨン」等の化粧品を製造販売するようになつたのが昭和三〇年一二月であつたとすると、一億数千万円の費用をかけて宣伝広告をしたという前記の供述記載は、原告会社あるいはゼリア新薬工業株式会社製造の医薬品についてのものではなく、大部分は化粧品についてのものであつたものと認められ、この事実と前記甲第一八号証、第二四号証によつて認められる、原告会社は昭和三五年五月頃以降は、「ゼリア」の名称のつく医薬品の宣伝広告はあまりしていなかつた事実を考えると、「ゼリア」の商標を附した医薬品が、本件商標の登録出願時(昭和四一年一月六日)において、原告製造の医薬品を示すものとして本邦において著名であつたものと認めることはできず、ゼリア新薬工業株式会社がその製造する医薬品について、「ゼリア」の商標を附して販売し、その商標が本件商標の登録出願時に本邦において著名であつたことを認めるに足る証拠もなく、証人谷口俊一の証言によつてその成立を認め得る甲第二五号証の一ないし五も右原告の主張事実を認めしむるに足りない。前記甲第三八号証(証人藤井富男に対する尋問調書)には、ゼリアの科研薬(原告会社)と言えば通じたから、「ゼリア」は相当に知名度が高かつたのではないかと思う旨の供述記載があるが、それがいつ頃のことであつたかもはつきりしないし、「ゼリア」と言えば原告会社を指すことが一般消費者にまで知れ渡つていたと認定することもできないから、右供述記載をもつて引用各商標を附した商品が、本件商標の登録出願時において原告会社の商品を示すものとして本邦で著名であつたとすることはできず(証人谷口俊一の証言によりその成立を認め得る甲第一九号証の一ないし六の記載内容は、前記認定事実に徴し措信しない。)、他に右事実を認めしむるに足る証拠はないから、右事実を前提として、被告の本件商標を附した商品は原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあつたとする原告の主張は理由がない。

(五) 原告は、本件商標は、原告の業務にかかる商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている引用各商標に類似する商標であつて、その指定商品に類似する商品(コンドーム)について使用するものであるから、商標法第四条第一項第一〇号に該当し、その登録を無効にされるべきものであると主張する。

しかしながら、本件商標と引用各商標は、前説明のとおり称呼においても、また、審決認定のとおり、外観においても類似せず、観念においては比較できないものと認められるから、本件商標が前掲商標法の規定に該当するものとする原告の主張は採用できない。

三 以上のとおりであつて、原告の主張はすべて理由がなく、本件商標の登録を無効とすべきでないとした審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕 本件登録商標に関する事項は左のとおりである。

原告は、次の商標(別紙第二参照)の商標権者である。

1 登録第四五八三二七号商標(以下、「引用A商標」という。)

右商標は、「GERIA」の欧文字と「ゼリアー」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、旧第一類化学品、薬剤及び医療補助品を指定商品として、昭和二九年二月一七日に登録出願、昭和三〇年一月一四日にその登録、昭和五〇年三月二八日に商標権存続期間更新の登録がなされているものである。

2 登録第四九〇四八七号商標(以下、「引用B商標」という。)

右商標は、「Geria」の欧文字と「ゼリア」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、旧第一類化学品、薬剤及び医療補助品を指定商品として、昭和三一年二月一一日に登録出願、同年一〇月二六日にその登録、昭和五二年二月一四日に商標権存続期間更新の登録がなされているものである。

被告は、登録第七四九九九七号商標(別紙第一参照――以下、「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、ゴシツク体の欧文字「JELLIYACOAT」と片仮名文字の「ゼリヤコート」を上下二段に横書きしてなり、第一類化学品、薬剤及び医療補助品を指定商品とし、登録第六〇九六五九号商標との連合商標として、昭和四一年一月六日に登録出願、昭和四二年七月三一日に登録されたものであるが、指定商品については、昭和五一年一二月一五日一部放棄により「コンドーム」に限定され、その後、昭和五二年一一月八日に商標権存続期間更新の登録がなされているものである。

原告は、昭和四四年五月三〇日、被告を被請求人とし、引用A、B両商標を引用して、本件商標登録無効の審判を請求し、昭和四四年審判第三八五二号事件として審理されたが、特許庁は昭和五五年六月二五日「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をし、その謄本は同年七月九日原告に送達された。

〔編註その二〕 本件に関する商標は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

別紙第二

(1)

<省略>

(2)

<省略>

別紙第三

(1)

<省略>

(2)

<省略>

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